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甲状腺手術とは?種類・合併症・術後の生活まで甲状腺専門医が解説

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甲状腺手術総論

甲状腺手術とは?種類・合併症・術後の生活まで甲状腺専門医が解説

甲状腺の病気では、薬や経過観察だけでなく、手術が必要になることがあります。 一方で、甲状腺手術と聞くと「声がかすれないか」「傷は目立つのか」「一生薬が必要になるのか」と不安を感じる方も少なくありません。

この記事では、甲状腺手術の種類、対象となる病気、合併症、術後の甲状腺機能低下症、ホルモン補充の注意点について、患者さん向けに分かりやすく解説します。

甲状腺手術が必要になる病気

甲状腺手術は、主に以下のような病気で検討されます。

甲状腺がん

甲状腺乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌などでは、病状に応じて手術が検討されます。 特に甲状腺乳頭癌は進行がゆっくりなことが多い一方で、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、年齢、位置によって治療方針が変わります。

濾胞性腫瘍

濾胞性腫瘍は、超音波所見や細胞診だけでは良性の濾胞腺腫と濾胞癌を区別することができません。 そのため、腫瘍の大きさや血液検査、経過を踏まえて手術が検討されます。

大きな良性甲状腺腫

腫瘍に対する細胞診の結果が良性であっても、サイズが大きくなることで、首の圧迫感、飲み込みにくさ、息苦しさ、見た目の問題が出る場合があります。そのため4cmを超える腫瘍に対しては手術を検討することがあります。

また、甲状腺全体として200gを越えるようなびまん性甲状腺腫の場合、気管圧迫による窒息リスクが出てくるため、症状に応じて手術となる場合もあります。

バセドウ病

抗甲状腺薬を開始して7年経過しても寛解状態(薬を飲まなくても安定している状態)に至らない場合、副作用で薬を続けられない場合、寛解後に再燃した場合、妊娠や仕事に向けて早期に確実な治療を希望する場合などに手術が選択肢になります。以前は甲状腺機能正常化を図るために甲状腺を少量残す亜全摘術が実施されていましたが、少しでも甲状腺を残しておくと将来のバセドウ病再燃の芽が残ることになり、実際に症状が再燃する症例が多く報告されたことから、現在では甲状腺全摘術が標準術式として選択されています。

甲状腺手術の種類

甲状腺片葉切除

甲状腺の右側または左側の片方を切除する手術です。 小さな甲状腺癌、濾胞性腫瘍、片側に限局した良性腫瘍などで行われます。

甲状腺全体の半分が残るため、術後も自分の甲状腺ホルモンを作り続けられる可能性があります。 ただし、過去の研究結果では30%の方に甲状腺機能低下症が起こると報告されており、その場合はチラーヂンSの補充が必要となります。

甲状腺全摘術

甲状腺をすべて切除する手術です。 両側に病変がある場合、再発リスクが高い甲状腺癌、バセドウ病などで行われます。

全摘後は甲状腺ホルモンを自分で作れなくなるため、チラーヂンSなどの甲状腺ホルモン薬を生涯内服する必要があります。

リンパ節郭清

甲状腺癌でリンパ節転移が疑われる場合には、甲状腺の手術と同時にリンパ節郭清を行います。 郭清の範囲は、がんの広がりやリンパ節転移の部位によって異なります。

甲状腺手術の主な合併症

反回神経麻痺

反回神経は声帯を動かす神経であり、甲状腺の背側左右に2本あります。 手術中にこの神経が影響を受けると、声がかすれる、声が弱くなる、高い声が出しにくい、長く話すと疲れるなどの症状が出ることがあります。多くは一時的ですが、まれに永続することもあります。 声を使う仕事の方は、手術前に特に確認しておくべき重要な合併症です。2本とも神経障害がおこると声帯が閉じた状態で固定されてしまい窒息のリスクとなります。

上喉頭神経外枝の障害

高い声を出す、声を張るといった動きに関係する神経です。 障害されると、歌いにくい、高音が出にくい、大きな声が出しにくいと感じることがあります。

副甲状腺機能低下症

副甲状腺は甲状腺の裏側にある小さな臓器で、血液中のカルシウムを調節しています。 手術の影響で副甲状腺の働きが低下すると、低カルシウム血症が起こることがあります。

症状としては、手足のしびれ、口の周りのしびれ、筋肉のけいれんなどがあります。 特に甲状腺全摘術では注意が必要です。通常は摘出した甲状腺に張り付いている副甲状腺を掘り出し、刻んだ後に胸鎖乳突筋にぬりつけることで機能が保持されることが多いです。

術後出血

頻度は高くありませんが、首の中で出血が起こると気道を圧迫する可能性があります。 術後早期に首の腫れ、息苦しさ、強い違和感がある場合には、緊急対応が必要です。

傷跡

甲状腺手術では首の前側に傷ができます。 多くの場合、時間とともに目立ちにくくなりますが、体質によっては赤みや盛り上がりが残ることがあります。

甲状腺片葉切除後に甲状腺機能低下症は起こる?

甲状腺片葉切除では甲状腺の半分が残るため、「手術後も薬は不要」と思われがちです。 しかし実際には、片葉切除後に甲状腺機能低下症を起こす方が一定数います。

報告により幅はありますが、甲状腺片葉切除後には約20〜30%前後の患者さんで甲状腺ホルモン補充が必要になるとされています。 

片葉切除後に機能低下症が起こりやすい方

  • ・手術前からTSHが高めの方
  • ・橋本病を合併している方
  • ・甲状腺自己抗体が陽性の方
  • ・残った甲状腺が小さい方
  • ・手術前から甲状腺機能がぎりぎり保たれていた方

甲状腺機能低下症の症状

  • ・疲れやすい
  • ・むくみやすい
  • ・体重が増えやすい
  • ・寒がりになる
  • ・眠気が強い
  • ・便秘
  • ・集中力低下
  • ・皮膚の乾燥

片葉切除後は、術後しばらく経ってから甲状腺機能低下症が明らかになることがあります。 そのため、術後の定期的な血液検査が重要です。

甲状腺全摘後のホルモン補充で知っておきたいこと

甲状腺全摘後は、甲状腺ホルモンを自分で作ることができなくなります。 そのため、チラーヂンSなどのレボチロキシン製剤を毎日内服します。

チラーヂンSはT4製剤

甲状腺ホルモンにはT4とT3があります。T3は代謝を上げる活性がT4の10倍以上強く、身体にとっての影響力はT3の方が重要な役割を担っています。

チラーヂンSはT4を補充する薬です。 T4は体内でT3に変換され、全身の代謝を調整します。

甲状腺はT3も直接分泌している

一般的に、体内のT3の80%近くはT4から変換されて作られます。 一方で、残り20%のT3は甲状腺から直接分泌されています。 つまり、健康な状態では、T3全体の約20%が甲状腺由来と考えられています。

甲状腺全摘後には、この甲状腺から直接分泌されるT3が失われます。 そのため、チラーヂンSによるT4単独補充では、FT4が基準値よりもやや高め、TSHが低めになっている方が代謝バランスとして安定するケースもあります。

TSHだけでなくFT4・FT3・症状を総合的に見ることが重要

全摘後のホルモン補充では、ただ正常基準値内を目指してFT4やTSHを調整すると、患者さんによっては疲れやすさ、むくみ、集中力低下などの症状が残ることがあります。

そのため甲状腺全摘後は、

  • ・TSH
  • ・FT4
  • ・FT3
  • ・年齢
  • ・心臓病や骨粗鬆症の有無
  • ・自覚症状
  • ・甲状腺癌の再発リスク

を総合的に評価して補充量を調整することが大切です。

ただし、TSHを過度に抑制しすぎると、動悸、不整脈、骨密度低下などのリスクが高くなることがあります。 特に高齢の方、心疾患がある方、骨粗鬆症リスクが高い方では慎重な調整が必要です。

甲状腺手術後の生活

手術痕のケア

手術痕をできるだけ目立たなくするためには、保湿と紫外線対策が重要です。傷跡は乾燥や紫外線の影響を受けると赤みや色素沈着が長引くことがあるため、術後は保湿剤や日焼け止めを活用しながら丁寧にケアを行いましょう。

また、レディケア®に代表されるシリコンシートは、傷跡を保護しながら適度な湿潤環境を保つことで、肥厚性瘢痕やケロイドの予防効果が期待できます。傷に加わる外部刺激や摩擦を軽減する目的でも有用です。

さらに、もともとケロイド体質の方や、過去に傷跡が盛り上がった経験のある方では、予防的にリザベン(トラニラスト)を処方することがあります。ただし、傷跡の状態や体質によって適切な治療法は異なるため、術後の経過を見ながら主治医と相談して進めることが大切です。

多くの方では、手術後数か月間は赤みや硬さが目立ちますが、その後徐々に落ち着いていきます。甲状腺手術では首のしわに沿って切開を行うため、適切なケアを継続することで、時間の経過とともに傷跡はかなり目立ちにくくなることが期待できます。

仕事復帰

仕事復帰の時期は、手術の範囲、仕事内容、術後経過によって異なります。 デスクワークであれば比較的早期に復帰できることもありますが、声を多く使う仕事や体力を使う仕事では余裕を持った調整が必要です。退院後に一律の仕事制限をかけることはありませんが、1週間程度休養をとられる方が多いです。

運動

軽い散歩は術後早期から可能なことが多いですが、激しい運動や首に力が入る運動は主治医の許可を得てから再開します。歯科医や美容院などで仰向けになって首を反らせる体勢については主治医によって制限する場合もあるので確認してください。

食事

通常、甲状腺手術後に特別な食事制限が必要になることは多くありません。 ただし、全摘後にカルシウムが低下した場合には、カルシウムやビタミンDの補充が必要になることがあります。

妊娠

甲状腺手術後でも、適切に甲状腺ホルモンが管理されていれば妊娠・出産は可能です。 妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、妊娠前からTSHを適切に管理し、妊娠判明後は早めに主治医へ相談しましょう。

甲状腺手術後のフォローで大切なこと

甲状腺手術は、手術を受けて終わりではありません。 術後の経過観察では、以下を確認します。

  • ・甲状腺ホルモンが不足していないか
  • ・チラーヂンSの補充量は適切か
  • ・カルシウムが低下していないか
  • ・声の変化が残っていないか
  • ・甲状腺癌の場合、再発がないか
  • ・リンパ節腫大がないか

特に甲状腺癌の術後では、超音波検査、血液検査、必要に応じてサイログロブリン測定などを行いながら長期的に確認します。

甲状腺手術に関するよくある質問

Q1. 甲状腺手術後は一生薬が必要ですか?

甲状腺全摘後は、原則として一生涯チラーヂンSなどの甲状腺ホルモン薬が必要です。片葉切除では薬が不要な方もいますが、約20〜30%前後の方で補充が必要になることがあります。

ただし、チラーヂンSは内服後1週間は体内に残存するため、数日飲み忘れてしまったとしてもただちに症状に影響が出ることはありません。

Q2. 甲状腺片葉切除後に甲状腺機能低下症は起こりますか?

起こりえます。甲状腺の半分が残っていても、残った甲状腺だけではホルモン産生が足りなくなることがあります。術前TSH高値、橋本病、甲状腺自己抗体陽性の方では注意が必要です。

Q3. 甲状腺全摘後に疲れやすくなることはありますか?

あります。多くの方はチラーヂンSで安定しますが、一部ではFT4・TSHが正常範囲内にあっても疲れやすさ、むくみ、集中力低下などを感じることがあります。FT4、FT3、自覚症状を含めた総合評価が重要です。

Q4. 甲状腺全摘後にむくみやすくなるのはなぜですか?

甲状腺ホルモンが不足すると、代謝が低下し、むくみや体重増加を感じることがあります。補充量が十分かどうか、TSHだけでなくFT4やFT3も含めて確認することがあります。

Q5. 甲状腺手術後に太りますか?

手術そのものが直接太る原因になるわけではありません。ただし術後に甲状腺機能低下症になると、むくみや代謝低下により体重が増えたように感じることがあります。その場合は可逆性でありチラーヂンSの内服により元にもどります。

Q6. 甲状腺手術後、声は元に戻りますか?

一時的な声のかすれは改善することが多いです。ただし反回神経麻痺や上喉頭神経外枝の障害がある場合、声の変化が長く残ることがあります。

Q7. 甲状腺手術後、いつから仕事に復帰できますか?

仕事内容や手術範囲によります。デスクワークであれば比較的早期に復帰できることもありますが、声を使う仕事や力仕事では主治医と相談して決める必要があります。

Q8. 甲状腺手術後、いつから運動できますか?

軽い散歩は早期から可能なことが多いですが、激しい運動、筋トレ、首に負担がかかる運動は主治医の許可を得てから再開してください。

Q9. 甲状腺手術後の傷跡は目立ちますか?

多くの場合、時間とともに目立ちにくくなります。ただし体質によっては赤みや盛り上がりが残ることがあります。傷跡の保湿や紫外線対策が重要です。

Q10. 甲状腺手術後に妊娠できますか?

適切に甲状腺ホルモンが管理されていれば妊娠・出産は可能です。妊娠中はホルモン必要量が増えるため、妊娠前から主治医と相談しておくことが大切です。

Q11. 甲状腺癌の手術後に再発することはありますか?

あります。甲状腺乳頭癌は予後が良いことが多いですが、リンパ節再発などが後から見つかることがあります。術後も定期的な超音波検査と血液検査が重要です。

Q12. 甲状腺全摘後、チラーヂンSはいつ飲むのがよいですか?

一般的には起床時や眠前など、空腹のタイミングで内服することが推奨されます。カルシウム剤、鉄剤、胃薬の一部は吸収に影響することがあるため、服用タイミングに注意が必要です。

Q13. 甲状腺手術後にカルシウムが下がることはありますか?

ありえます。特に甲状腺全摘後は副甲状腺の働きが一時的または永続的に低下し、低カルシウム血症を起こすことがあります。手足や口周囲のしびれがある場合は注意が必要です。

Q14. 片葉切除と全摘ではどちらがよいですか?

病気の種類、大きさ、広がり、リンパ節転移の有無、再発リスクによって異なります。片葉切除は手術合併症のリスクが低くホルモン機能を残しやすい一方、全摘は再発リスクや術後管理の面で選ばれることがあります。

Q15. 手術を勧められましたが、すぐに受けるべきですか?

病状によります。急ぐべき場合もありますが、低リスクの甲状腺乳頭癌などでは慎重に経過観察を検討できることもあります。手術の必要性、術式、術後の生活を理解したうえで判断することが大切です。

Q16. 甲状腺手術後の通院はどのくらい必要ですか?

術後早期はホルモン値やカルシウム値の確認が必要です。その後も、甲状腺ホルモン補充量の調整や再発確認のため、定期的な通院が必要になります。

Q17. 甲状腺全摘後の寿命は短くなりますか?

適切に甲状腺ホルモンを補充し、病気に応じた経過観察を受けていれば、通常の日常生活を送ることができます。重要なのは、自己判断で薬を中断しないことです。

Q18. 甲状腺手術後に食べてはいけないものはありますか?

通常は大きな食事制限はありません。ただし、甲状腺ホルモン薬の吸収に影響する薬やサプリメントがあるため、カルシウム剤、鉄剤、胃薬などを併用する場合は医師に確認しましょう。

Q19. 甲状腺手術後に首の違和感は残りますか?

術後しばらくは、つっぱり感、飲み込みにくさ、違和感を感じることがあります。多くは時間とともに軽快しますが、症状が強い場合や長引く場合は主治医に相談しましょう。

Q20. 甲状腺手術後のホルモン管理は専門クリニックでも可能ですか?

可能です。手術自体は手術室がある病院で行いますが、術後の甲状腺ホルモン補充、TSH・FT4・FT3の調整、超音波検査による経過観察などは甲状腺専門クリニックで行うことができます。

監修者プロフィール

院長
蛭間重典(Shigenori HIRUMA, MD, PhD)

日本甲状腺学会専門医・評議員
東邦大学医療センターや伊藤病院(甲状腺専門病院)で甲状腺専門外来に従事。日本甲状腺学会次世代研究者の会(NexT-JTA)所属。 2025年JR蒲田駅前にひるま甲状腺クリニック蒲田を開業。執筆に『伊藤病院 甲状腺症例を極める(新興医学出版社/2024)』など。 伊藤病院非常勤医師(火曜9-14時外来)、金沢医科大学非常勤講師を兼務。

受賞歴

  • 2023年 日本甲状腺学会
    ロシュ若手奨励賞
    (Young Investigator Award: YIA)
  • 2023年 日本体質医学会
    若手研究奨励賞
  • 2024年 日本抗加齢医学会
    若手研究者賞
  • 2024年 甲状腺病態生理研究会
    研究奨励賞
蛭間重典(Shigenori HIRUMA, MD, PhD)