
体調の変化には、疲れや睡眠不足などの身近な原因だけでなく、ホルモンの異常が関係していることがあります。なかでも甲状腺ホルモンの不足はゆっくり進むことが多く、本人も周囲も変化に気づきにくい場合があります。
甲状腺機能低下症が著しく進行すると、まれに「粘液水腫性昏睡」と呼ばれる重篤な状態に至ることがあります。早期の対応が重要な病態であるため、原因や症状だけでなく、どのような変化があれば緊急受診が必要なのかを知っておくことも大切です。
粘液水腫性昏睡とは?
粘液水腫性昏睡とは、重度の甲状腺機能低下症を背景に、意識障害や低体温、呼吸機能の低下、循環不全などが起こる状態です。甲状腺ホルモンの不足が脳や心臓、呼吸器などにも影響を及ぼすことで発症します。
「昏睡」という名前が付いていますが、最初から意識を失っているとは限りません。いつもより眠りがちになる、呼びかけへの反応が遅くなる、会話がかみ合わなくなるといった変化から徐々に状態が悪化するケースもあります。
粘液水腫性昏睡の原因
粘液水腫性昏睡の主な原因は、甲状腺ホルモンが著しく不足することです。橋本病などによる甲状腺機能低下症のほか、甲状腺手術後や放射性ヨウ素治療後、処方されている甲状腺ホルモン薬の中断などが関係する場合があります。
さらに、感染症、寒冷、手術、外傷、心臓の病気などをきっかけに発症することがあります。甲状腺機能低下症が長期間続いている方では注意が必要です。
甲状腺機能低下症でみられる症状
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が低下するため、寒がり、疲労感、眠気、むくみ、体重増加、食欲低下、皮膚の乾燥、便秘などがみられます。脈が遅くなったり、動作がゆっくりしたりすることもあります。
また、物忘れや集中力の低下、意欲低下などが現れる場合もあります。症状は徐々に進むことが多いため、加齢や疲労による変化と区別しにくいケースもあります。
粘液水腫性昏睡の症状
粘液水腫性昏睡まで進行すると、通常の甲状腺機能低下症よりも強い症状が現れます。特に重要なのが意識状態の変化です。強い眠気が続く、ぼんやりして受け答えが遅い、呼びかけても反応しにくいなどの状態がみられることがあります。
さらに、体温が著しく低くなる、脈が遅くなる、血圧が低下する、呼吸が浅くなるといった変化もみられます。低ナトリウム血症や低血糖を伴うこともあり、複数の異常が重なることで全身状態が悪化する場合があります。
粘液水腫性昏睡の検査
粘液水腫性昏睡が疑われる場合には、血液検査でTSHやFT4などの甲状腺機能に関する数値を確認します。あわせて血糖値やナトリウムなどの電解質、肝臓や腎臓の機能についても調べ、全身の状態を確認します。
必要に応じて心電図や画像検査、血液ガス検査などを行い、呼吸や心臓の状態、感染症など発症のきっかけとなった原因を確認します。
粘液水腫性昏睡の治療
粘液水腫性昏睡は緊急性が高いため、入院して治療を行うことが基本です。不足している甲状腺ホルモンを補いながら、呼吸や血圧、体温などを慎重に管理していきます。状態によっては集中治療が必要になることもあります。
また、低血糖や電解質異常への対応、副腎皮質ステロイドの投与などが行われる場合があります。感染症がきっかけとなっている場合には、その治療も並行して進めます。甲状腺だけを治療するのではなく、全身状態を支えながら回復を図ることが重要です。
粘液水腫性昏睡を予防するには?
重症化を防ぐためには、甲状腺機能低下症を適切に治療し、定期的に血液検査を受けることが大切です。甲状腺ホルモン薬を服用している場合には、体調がよくなったからと自己判断で中止せず、医師の指示に沿って治療を続けます。
寒がりやむくみ、強い眠気、体重増加、便秘、物忘れなどが続く場合は、甲状腺機能の低下が隠れている可能性があります。特に甲状腺の病気を指摘されたことがある方は、いつもと違う体調の変化を放置せず、早めに相談することが大切です。
意識の変化がある場合は早めの受診を
普段とは明らかに様子が違い、呼びかけても反応が鈍い、会話が成立しない、起こしてもすぐ眠ってしまうといった意識の変化がある場合には注意が必要です。体が異常に冷たい、呼吸が浅い、極端にぐったりしているなどの症状を伴う場合は通常の外来受診を待たず、救急要請を含めた速やかな医療対応が求められます。
粘液水腫性昏睡はまれな病態ですが、一度発症すると全身に大きな影響を及ぼします。その一方で、背景となる甲状腺機能低下症を早い段階で見つけ、適切な治療を継続することが重症化の予防につながります。日頃の体調変化を見逃さず、気になる症状が続く場合には甲状腺内科などの医療機関へ相談してください。





