妊娠を考えている方の治療|大田区蒲田駅の甲状腺専門診療|ひるま甲状腺クリニック蒲田

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妊娠を考えている方の治療

妊娠を考えている方の治療|大田区蒲田駅の甲状腺専門診療|ひるま甲状腺クリニック蒲田

妊娠と甲状腺について

腹部を押さえている女性

甲状腺は、首ののどぼとけ(甲状軟骨)のやや下側にある小さな臓器で、体の代謝や成長に関わる甲状腺ホルモンを分泌しています。おなかの中にいる赤ちゃんにとっては脳神経系の発達に不可欠である一方で、赤ちゃん自身が甲状腺ホルモンを産生することができるようになるのは妊娠20週目以降であるため、妊娠の前半においてはお母さまの甲状腺ホルモンを赤ちゃんに分け与えてあげる必要があります。そのため妊娠を希望する方や妊娠中の方にとって、甲状腺ホルモンが十分に分泌できているのかは非常に重要です。甲状腺機能の異常があると、妊娠の成立や胎児の発育に影響を与える可能性があり、適切な検査と治療が必要となります。よく患者さまからいただく質問の中で、お母さまの妊娠初期に甲状腺ホルモンの欠乏があると、産まれてきた赤ちゃんが成長して小学生になった頃に脳の容積が小さく、IQが低かったといった報告(Korevaar, et al. 2016)の話を気にされる方も多いですが、近年ではブライダルチェックや妊婦健診でも甲状腺機能を測定する機会が多く、研究が実施された当時(2002-2006年)よりも甲状腺機能低下症の早期発見ができていると推察されるため、必要以上に不安を感じる必要はございません。

妊娠中はさまざまな理由から甲状腺ホルモンの分泌量に個人差があり、一般の基準値では正常・異常の判断が難しい場合もあります。伊藤病院からのデータで、日本人における妊娠週数毎の正常範囲が報告されており、当院でも伊藤病院の測定系に合わせた設備(ロシュ・ダイアグノスティックス社の免疫分析装置)を導入しているため、患者さまへの説明においては、そのデータをもとにお話をさせていただきます。

妊婦に影響を与える甲状腺疾患

甲状腺機能低下症
(橋本病など)
  • 妊娠しにくくなる(排卵障害やホルモンバランスの乱れ)
  • 流産・早産のリスクが上がる
  • 胎児の発育に影響(特に脳や神経の発達に影響する可能性)

顕性の甲状腺機能低下症(明らかな甲状腺ホルモンの欠乏)では、不妊症や流産率の上昇が報告されています。日常生活には影響のない潜在性甲状腺機能低下症(みかけ上甲状腺ホルモン値は低下していない)でも、流産率が上昇する可能性が示唆されています。

甲状腺機能亢進症
(バセドウ病など)
  • 流産・早産、妊娠高血圧症候群のリスクが上昇
  • バセドウ病においては、お母さまから分泌される自己抗体や内服中の抗甲状腺薬が胎盤を通って胎児に影響を及ぼすことがある(胎児の甲状腺機能異常の可能性)

顕性の甲状腺機能亢進症(明らかな甲状腺ホルモンの上昇)では、不妊症との関係や流産率の上昇が報告されています。また、バセドウ病の方は甲状腺機能が正常であっても自己抗体や抗甲状腺薬が胎児の甲状腺機能に影響を及ぼすこともありますので、妊娠を希望される方は妊娠前から適切にコントロールしておくことが大切です。

妊娠を希望される方や不妊治療中の方の甲状腺検査・治療

検査

血液検査と超音波検査を行います。
血液検査では甲状腺機能異常の有無や自己抗体価の確認などを行っております。超音波検査では、甲状腺実質の変化や結節の有無などを確認しております。
結節を認めた場合、妊娠によりサイズが増大しやすくなるといった報告もあるため、必要に応じて妊娠前に細胞診検査を行っておくことがあります。

治療

バセドウ病の方は、妊娠前に内服薬の変更を行うことがあります。妊娠初期にメルカゾールを内服していると、胎児の形態異常をきたすリスクが高まるといった報告があるからです。メルカゾールからチウラジール、プロパジールに切り替える場合が多いですが、薬の切り替え時は副作用の発現リスクが高いため、切り替え後3ヶ月間は避妊をお願いすることになります。
内服薬でコントロール不十分な方や内服薬の量が多い場合には、妊娠前の事前準備としてアイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)や手術をご提案することもあります。

現行されているガイドラインでは、アイソトープ治療の際に投与される放射性ヨウ素が胎児に影響しなくなるには6ヶ月あれば十分とされていますが、アイソトープ治療後に一過性に上昇する自己抗体価が元のレベルに戻るのに中央値1年程度はかかるため、当院ではアイソトープ治療後1年間は避妊する想定で治療時期を選択いただくようにご説明しています。
甲状腺機能低下症の場合、甲状腺ホルモンを固めた薬であるチラーヂンSの内服を行います。特に橋本病患者さまにおいては、軽症の甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモンの補充を行うことによって妊娠率や流産率が改善したとの報告もあります。不妊治療を考えている方には早期からのホルモン補充が大切です。

妊娠中の甲状腺検査・治療

検査

血液検査と、必要に応じて超音波検査を行います。
当院で行う超音波検査は、甲状腺疾患の検査目的となります。産婦人科で行う腹部超音波検査や経膣超音波検査による胎児や子宮・膣・卵巣などの確認は行っておりません。

治療

病態に応じて、必要時のみ内服を行います。
バセドウ病は自己免疫疾患であるため、妊娠中は免疫力の低下に伴い、病勢が落ち着く方が多いです。ごくまれに妊娠中に甲状腺の手術を行わなければならないほど不安定になる方もいらっしゃいますが、その場合は妊娠後期の安定したタイミングで行います。
甲状腺機能低下症の方は、甲状腺ホルモンを固めたお薬であるチラーヂンSの内服を継続いただきます。

産後の甲状腺検査・治療

検査

血液検査と、必要に応じて超音波検査を行います。
産後の影響で甲状腺機能が変動する方がおられます。
特に橋本病の方は無痛性甲状腺炎を引き起こしやすく、まれにバセドウ病へ切り替わることもあるため、定期的な検査が大切です。
バセドウ病の方も、妊娠中に病勢が落ち着いていたことへの反動として症状をぶり返す方が多いため定期的な検査は必要です。

治療

バセドウ病の方は、甲状腺ホルモンの値や授乳の有無によって抗甲状腺薬の用量を調節します。抗甲状腺薬は乳汁中にも分泌されてしまうため、一定以上の用量になると赤ちゃんへの影響を懸念し断乳をお願いする場合がございます。なお、日本において抗甲状腺薬の代用としてよく使われるヨウ化カリウム(無機ヨウ素)に関しては、乳汁移行についてのデータが不十分であるため、内服の用量に関わらず断乳を推奨しています。
妊娠前に顕性の(しっかりとした)甲状腺機能低下症があった場合はチラーヂンSの内服を継続しますが、軽度の甲状腺機能低下症であった場合にはチラーヂンSを中止してみることをトライします。
無痛性甲状腺炎では、時間がたつと自然に甲状腺機能が正常化するため、経過観察を行います。

妊娠を考えていらっしゃる方へ

妊娠前に甲状腺の異常がある場合でも、あらかじめ適切な治療を開始しておくことで安全に妊娠・出産が可能です。妊娠を希望される方や妊娠中の方は、定期的な甲状腺検査を受け、必要に応じて専門医の診察を受けることをおすすめします。
当院では、妊娠を希望される方や妊娠中の方の甲状腺管理を専門的に行っています。安心して妊娠・出産を迎えるために、気になることがおありの方はお気軽にご受診ください。

監修者プロフィール

院長
蛭間 重典(ひるま しげのり)

日本甲状腺学会専門医
東邦大学医療センターや伊藤病院(甲状腺専門病院)で甲状腺専門外来に従事。日本甲状腺学会次世代研究者の会(NexT-JTA)所属。 品川・蒲田・川崎エリアでは甲状腺専門医によるクリニックが少なく、紹介先や通院先に困るといった同僚医師・患者さまの声に応える形で2025年5月JR蒲田駅前にひるま甲状腺クリニック蒲田を開業。執筆に『伊藤病院 甲状腺症例を極める(新興医学出版社/2024)』など。

受賞歴

  • 2019年 日本甲状腺学会トラベルグラント
  • 2023年 日本甲状腺学会ロシュ若手奨励賞
    (Young Investigator Award: YIA)
  • 2024年 甲状腺病態生理研究会研究奨励賞
蛭間 重典(ひるま しげのり)