
甲状腺機能低下症(橋本病)
甲状腺機能低下症(橋本病)
血液中の甲状腺ホルモンが減少していることを甲状腺機能低下症といいます。原因としては橋本病が多いですが、ほかにも遺伝性、薬剤性やヨウ素の過剰摂取、放射線照射後の甲状腺萎縮によるものなど、様々です。甲状腺ホルモンが不足すると全身の代謝が低下するため、耐寒性の低下(寒がり)、体重増加、体温低下、だるさ、便秘、高コレステロール血症などが出現します。重度の甲状腺機能低下症の場合には、全身に水が溜まった状態になり、心臓の動きに影響が出たりすることもあります。また、気分が落ち込んだり、不安感が増したりすることもあります。うつ病や認知症、更年期障害、脂質異常症として治療されていることもありますので、疑わしい症状があれば、甲状腺ホルモンの検査をお勧めします。
甲状腺ホルモンが不足すると全身の代謝が低下し、以下のような症状が現れます。症状は徐々に進行することが多いため、気づきにくいことも多いです。倦怠感やむくみなど、日常的な不調として見過ごされることもありますので、お早めに専門医療機関を受診してください。
橋本病は慢性甲状腺炎ともよばれ、甲状腺機能低下症を引き起こす代表的な疾患です。自己免疫の異常によって引き起こされますが、どのようなきっかけでそれが起こるかはわかっていません。日本人で頻度が高く、また女性に多く、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられます。ただし、すべての患者さまで甲状腺ホルモンが少なくなるわけではなく、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは4人に1人未満といわれています。30~40代の女性に発症することが多い疾患です。
橋本病は免疫の異常により炎症が生じ、甲状腺が少しずつ破壊される病気です。甲状腺の炎症により甲状腺が大きくなり、首が太くなったように感じることがあります。甲状腺ホルモンが不足している際には、全身の代謝が低下するため、耐寒性の低下(寒がり)、体重増加、体温低下、だるさ、かすれ声、便秘、脂質異常症などの症状が出現します。女性では月経異常になることがあります。また、気分が落ち込んだり、不安感が増したりすることもあります。うつ病や更年期障害、脂質異常症として治療されていることもあるので、疑わしい症状があれば、甲状腺ホルモンの検査をお勧めします。橋本病では、甲状腺中毒症の状態を呈することもありますので、必ずしも甲状腺機能が低下しているとは限りません。これは、橋本病の体質を持っていると、無痛性甲状腺炎という甲状腺からホルモンが漏れ出てしまう病気が併発しやすいからです。そのため、しっかりと状態を見極めたうえで診断や治療を行うことが大切です。
橋本病の体質を持っていても甲状腺機能低下(甲状腺ホルモンの減少)がみられない場合、原則的に自覚症状もなければ治療も必要ありません。甲状腺機能低下症が認められる場合は、合成T4製剤(甲状腺ホルモン薬/チラーヂンS)の内服を行います。昆布など海藻類に多く含まれるヨウ素の過剰摂取は、甲状腺の働きを低下させるため、過剰摂取が疑われる場合は、それらの摂取制限も必要となります。
倦怠感など甲状腺機能低下症の症状が強い場合、治療によって甲状腺ホルモンが正常に戻るまでは、あまり体に負担をかけないように心がけましょう。
また、橋本病は甲状腺リンパ腫の発症リスクであるため、甲状腺機能が正常であっても定期的なフォローアップを行いましょう。
血液検査と超音波検査を行います。これらの結果は、原則、当日にご説明いたします。
診察に加えて血液検査と超音波検査を行うことで、ほとんどの甲状腺機能低下症の原因は診断がつきます。
血液検査では、甲状腺ホルモン値や甲状腺関連の抗体価の測定、生化学検査などを行い、原因疾患を鑑別します。同時にLDL(悪玉コレステロール)増多に伴う脂質異常症などを合併しているかどうかも確認します。超音波検査では、甲状腺のしこりの有無や甲状腺の大きさ、内部の見え方などで原因疾患を鑑別します。
脈が遅い、脈が乱れているなどの症状がある場合には、心電図の検査を行います。
出生時の検査や家族歴などが疾患の鑑別に有用となることもありますので、そのような場合には診察時にぜひお話しください。
甲状腺ホルモン薬の内服を行います。一時的に甲状腺機能が低下する病気もあり、その際には甲状腺ホルモン薬の内服を行わないこともあります。治療が必要かどうかは、甲状腺専門医が判断いたします。
挙児希望がある場合には、血液検査でおおむね正常範囲内、もしくは軽度の甲状腺機能低下症の場合にも、甲状腺ホルモン薬の内服を行うことがあります。甲状腺ホルモン薬の内服は、ご妊娠を希望される際や甲状腺ホルモンが一時的に変動する病気以外は、原則永続的に内服します。
お薬をずっと飲み続けていくことを不安に思う方もいらっしゃると思いますが、もともと身体の中にある甲状腺ホルモンT4(チロキシン)を固めて製品化したものがチラーヂンSであり、ほかのお薬との飲み合わせで重大な化学反応を起こしたりすることもありません。もともと身体の中にあるものですから、もしもほかのお薬と飲み合わせで反応が起こるとしたら、そもそもそのもうひとつのお薬が人体にとって毒物であったということになってしまいます。また、このチラーヂンSは半減期(血液中濃度が半分になるまでの時間)がおよそ一週間と身体の中で長持ちするため、毎日内服することで段々と積み重なって効果が出てきます。逆に言えば、3~4日程度であれば内服を忘れてしまったとしても大きな影響はありません。旅行で持ち忘れてしまってもすぐに体調不良を来たす可能性は低いので、飲み忘れを過剰に不安視する必要はないのです。
院長
蛭間 重典(ひるま しげのり)
2019年 | 日本甲状腺学会トラベルグラント |
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2023年 | 日本甲状腺学会ロシュ若手奨励賞 (Young Investigator Award: YIA) |
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2024年 | 甲状腺病態生理研究会研究奨励賞 |
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