
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
血液中の甲状腺ホルモンが過剰な状態を甲状腺中毒症と呼びます。甲状腺中毒症のなかで、ホルモンの過剰産生が病態であるものを甲状腺機能亢進症と呼び、バセドウ病や機能性結節が該当します。一方で、甲状腺のホルモンを合成する力は暴走していないものの、何かしらの原因によって甲状腺が破壊されることで、甲状腺に貯蔵されていたホルモンが漏れ出てしまう病態を破壊性甲状腺炎と呼びます。破壊性甲状腺炎には、発熱や頸部痛を伴う亜急性甲状腺炎や、自覚症状を感じづらいこともある無痛性甲状腺炎が含まれます。
血液中の甲状腺ホルモンが過剰になると、血液がめぐった先の全身の臓器の代謝が高まる(亢進する)ことで症状が現れます。
典型的な症状としては、暑がりになって汗をかきやすくなったり、手が震えたり、体重減少、動悸などがあります。下痢や気持ちが落ち着かない、怒りっぽくなる、疲れやすいなどの症状が出ることもあります。女性では生理が遅れ、無月経になることもあります。男性では、炭水化物の多い食事の後や運動後などに手足が突然動かなくなる発作(周期性四肢麻痺)がまれですが起こります。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、新陳代謝が活発になり、さまざまな症状が現れます。代表的な症状は以下のとおりです。このような症状が続く場合は、早めに医療機関を受診してください。
甲状腺ホルモンには、全身の臓器に作用して体の発育を促進し、新陳代謝を盛んにする大切な働きがあります。この甲状腺ホルモンは、多すぎても少なすぎても体調が悪くなります。バセドウ病は、甲状腺ホルモンを過剰に産生する病気で、代謝が高まる(亢進する)ことで様々な症状が現れます。
バセドウ病は、甲状腺を刺激する自己抗体(TRAb/TSAb:抗TSH受容体抗体)によって甲状腺ホルモンを多く作ってしまう病気ですが、その抗体が作られてしまう原因はわかっていません。刺激を受けた甲状腺は、全体的に大きく腫れていきます。この自己抗体は甲状腺以外にも眼球周囲にある線維芽細胞(脂肪細胞や筋肉細胞の子供)を増殖させ、眼球を圧迫していきます。圧迫により眼球が前方に押し出されると、眼球が突出してみえるようになり、周りの人に指摘されたり、目が閉じられなくなったりするようになります。後方に押し出された場合は視力低下や色覚異常(色がわかりづらくなる)といった症状が出ます。眼球を動かす筋肉が腫大しすぎるとほかの筋肉と協調運動がとれなくなり、物が二重にみえることもあります。炎症が強いと眼球周囲に激しい疼痛を伴うこともあり、ステロイド治療が奏功する場合がありますが、治療のタイミングが遅れると効果に乏しくなってしまうため、バセドウ病の方で目の症状が気になるのであれば早めの眼科受診を勧めています。以前はバセドウ病による目の症状をバセドウ眼症とよんでいましたが、まれですが橋本病の方でも同様の症状をきたすことがあり、最近では甲状腺眼症とよぶようになりました。
諸悪の根源である自己抗体を身体から消し去ることができればバセドウ病は理論上完治も望めるのですが、現代医療ではいまだその技術はありません。自己抗体が働きかける甲状腺が暴れすぎないように(ホルモンを過剰産生させないように)、甲状腺の力をそぎ落とすしかありません。その治療法は大きく分けて薬物療法、アイソトープ治療(131I内用療法)、甲状腺摘出術の3つがあります。それぞれメリットデメリットがあり、患者ごとの病態や希望に合わせて選択していきます。
(2024年2月 第54回伊藤病院研究会 院長講演時のスライドより)
日本とヨーロッパでは抗甲状腺薬による薬物療法が選択されることが多く、米国ではアイソトープ治療が好まれる傾向にあるようです。薬物療法を長期間継続しても薬を中止できる目途が立たない場合や薬物治療による副作用が出現した場合に、アイソトープ治療や甲状腺摘出術などの治療法に切り替えることが多いです。
甲状腺機能が不安定にもかかわらず長期間抗甲状腺薬を内服することのメリットは乏しく、放射性ヨウ素内用療法や甲状腺摘出術に切り替えるタイミングの見極めが重要です。
当院では、甲状腺専門医が適切なタイミングで治療の切り替えについてサポートいたします。アイソトープ治療や甲状腺摘出術を行う際には、近隣の東邦大学医療センター大森病院や、院長副院長が火曜日に勤務している伊藤病院(表参道にある甲状腺専門病院)を紹介させていただきます。どちらもスムーズな病診連携が可能です。アイソトープ療法や甲状腺摘出術を行った後は、再度当院でフォローアップを続けていくこともできます。
バセドウ病はストレスによって病気が悪化したり、再発したりすることがありますので、日常生活では、できるだけストレスを避けて規則正しい生活を送るようを心がけましょう。
血液検査と超音波検査を行います。これらの結果は原則、当日にご説明いたします。
血液検査と超音波検査を行うことで、ほとんどの甲状腺中毒症の原因は診断がつきます。
血液検査では、甲状腺ホルモン値や抗体価、生化学検査などを行い、原因疾患を鑑別します。超音波検査では、甲状腺の大きさや内部の見え方、しこりの有無、血流の評価などで原因疾患を鑑別します。
脈が速い、脈が乱れているなどの症状がある場合には、心電図の検査を行います。
また、甲状腺の中にしこりがある場合、細胞診検査を行うこともあります(予約制)。
ごくまれに血液検査と超音波検査では原疾患の鑑別がつかないこともあり、その際には東邦大学医療センター大森病院や院長副院長が火曜に勤務している伊藤病院で放射線検査を実施する必要があります。
妊娠中、産後、家族歴などが疾患の鑑別に有用となることもありますので、そのような場合には診察時にぜひお話ください。
甲状腺中毒症の疾患ごとに治療法は異なります。
診断ののち、治療介入を行うか、経過観察でも自然治癒が見込めるかを判断します。
具体的にはバセドウ病の場合は原則内服治療を開始しますが、無痛性甲状腺炎は経過観察となります。
亜急性甲状腺炎や機能性結節は、症状や血液検査の結果次第で内服治療を行います。
疾患や状況に応じて、アイソトープ治療や外科的治療を薦めさせていただきます。
甲状腺中毒症・機能亢進症と診断された際には、過度な運動や飲酒は控えていただくことが望ましいです。また、身体的ストレスは症状を悪化させるため、抜歯を含む手術やワクチン接種、ご妊娠も甲状腺機能が正常化するまでは控えていただいた方が望ましいです。
身体負荷の多い職場であれば就業制限が望ましい場合もあり、必要に応じて診断書の発行も行います。
院長
蛭間 重典(ひるま しげのり)
2019年 | 日本甲状腺学会トラベルグラント |
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2023年 | 日本甲状腺学会ロシュ若手奨励賞 (Young Investigator Award: YIA) |
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2024年 | 甲状腺病態生理研究会研究奨励賞 |
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