
朝の一杯のコーヒーや、食後に飲むお茶が日常の習慣になっている方は多いと思います。しかし、甲状腺に関する診断を受けた方の中には、「カフェインや成分がホルモンに影響するのでは」と心配する声も少なくありません。
本記事では、お茶やコーヒーに含まれる成分が甲状腺機能にどのように関わるのか、解説します。
カフェインと甲状腺ホルモンの関係
お茶やコーヒーに含まれるカフェインは、中枢神経を刺激し、眠気を覚まして集中力を高める作用があります。さらに代謝を一時的に促す働きもあり、朝の目覚めや仕事中のリフレッシュに欠かせません。しかし、甲状腺ホルモンも体内で代謝を司る役割を持っており、カフェインの刺激と重なることで代謝が過剰に高まることがあります。
特に甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の人は、もともと代謝が活発な状態のため、カフェインを摂ることで動悸や手の震え、不安感、発汗などの症状が強まることがあります。一方、甲状腺機能低下症の人は、カフェインの一時的な覚醒作用によって「元気になった」と錯覚する場合がありますが、根本的な改善にはつながらず、疲労の蓄積に気づかないこともあります。カフェインは適量であれば問題ありませんが、体調の変化を見ながらバランスを取ることが大切です。
緑茶・紅茶・コーヒーの成分と特徴
お茶やコーヒーと一口にいっても、成分構成はそれぞれ異なります。たとえば、緑茶にはテアニンというアミノ酸が含まれ、カフェインの刺激をやわらげてリラックス効果をもたらします。そのため、緑茶は心を落ち着けたいときにもぴったりの飲み物です。紅茶はカフェイン量がやや多く、香り成分によるリフレッシュ効果がありますが、飲み過ぎると利尿作用が強まり、ミネラルバランスが崩れることがあります。コーヒーは最もカフェイン量が多い飲み物の一つで、覚醒作用が強く出やすい傾向があります。特に空腹時に飲むと胃酸が多く分泌され、消化器への刺激になることもあります。
甲状腺疾患を持つ人では、このようなカフェインの含まれた飲み物を摂りすぎると自律神経の乱れに影響する場合もあるため、飲む時間帯や量に注意が必要です。カフェインを控えたい場合は、デカフェ(カフェインレス)を選ぶのも良い方法です。
カフェインとヨウ素の関係
甲状腺ホルモンの材料となるのは「ヨウ素(ヨード)」です。日本人は海藻を多く食べるため、世界的に見てもヨウ素の摂取量が多いといわれています。しかし、カフェインには利尿作用があるため、過剰に摂ると体内のヨウ素やミネラルが排出されやすくなることがあります。その結果、ホルモンのバランスが崩れ、甲状腺機能に影響を及ぼす可能性があります。
一方、バセドウ病のように甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態では、ヨウ素の摂りすぎが症状の悪化につながるケースもあります。つまり、カフェインもヨウ素も「多ければよい」というものではなく、適切なバランスを維持することが大切です。
カフェイン摂取と薬の関係
甲状腺機能低下症の治療に使われる代表的な薬が「チラーヂン(レボチロキシン)」です。この薬は、甲状腺ホルモンを補う働きがあります。しかし、コーヒーやお茶に含まれるカフェインやタンニンは、この薬の吸収を妨げることがあると報告されています。特に服用直後にコーヒーを飲むと、薬が体内に十分に吸収されない可能性があります。そのため、薬を飲む際はコーヒーやお茶ではなく水を使うことが推奨されています。さらに、服用後30分から1時間程度はカフェインを避けることがおすすめです。
また、鉄やカルシウムのサプリメントも薬の吸収を阻害する場合があるため、服用のタイミングを分けると安心です。
カフェインは1日200mgを目安に
カフェインを完全に避ける必要はありませんが、摂取量をコントロールする意識が大切です。一般的に、健康な成人であれば1日400mgまでが安全とされています。コーヒー1杯で約100mg、紅茶1杯で30〜50mg程度のカフェインが含まれます。甲状腺の状態に不安がある人は、その半分ほどに抑えると安心です。朝に1杯、午後にもう1杯程度が理想的です。
また、夜にカフェインを摂取することは避けると良いです。甲状腺ホルモンの分泌にはリズムがあり、夜間に刺激を受けると睡眠の質が下がりやすくなります。寝る前はノンカフェインのお茶や白湯、ルイボスティーなどを取り入れると、体を休める効果が高まります。
自分に合った飲み方を見つける
お茶やコーヒーは小休憩のお供にもぴったりで、リラックスしたいときには必要不可欠という方の場合、体調に合わせて自分に合った飲み方を見つけることが大切です。動悸や手の震えを感じたときは一時的に控えたり、代わりにカフェインレス飲料を取り入れるなど、小さな工夫で体調の変化を和らげられます。季節や気温、体調に合わせて飲み物を選ぶことも、自律神経の安定につながります。
カフェインをよく摂取していて、疲れやすい、体重の変化がある、動悸や息切れが気になるといった症状がある場合は、甲状腺の検査を受けてみることをおすすめします。甲状腺機能のバランスを知ることで、自分に合った生活スタイルが見えてきます。お茶やコーヒーを上手に楽しみながら、体調管理も行うことがベストです。