
発熱は風邪や感染症によって起こるものという印象が強く、内科を受診する際もまずは呼吸器や消化器の病気を疑う方が多い傾向があります。しかし、検査をしても明らかな感染源が見つからず、微熱や高熱が続くケースも少なくありません。そのような場合、内分泌疾患、特に「甲状腺」の異常が関与している可能性があります。
甲状腺は体温調節やエネルギー代謝に深く関わる臓器であり、異常が生じると全身にさまざまな症状が現れます。発熱もその代表的な症状の1つであり、甲状腺疾患の初期サインとして見逃されやすい特徴があります。
発熱が甲状腺からくるときの特徴
甲状腺が原因となる発熱には、いくつか共通した特徴があります。まず挙げられるのは、発熱の割に咳や喉の痛み、鼻水といった感染症特有の症状が乏しい点です。解熱剤を使用しても一時的にしか体温が下がらず、微熱から中等度の発熱が持続する傾向も見られます。日内変動が少なく、安静にしていても体が熱っぽく感じられることも特徴の1つです。
さらに、発熱と同時に動悸や手の震え、発汗の増加、体重減少、強い疲労感などがみられる場合、甲状腺由来の可能性が高まります。首の違和感や痛みを伴う発熱では、甲状腺の炎症性疾患が背景にあることもあります。発熱単独で経過を見るのではなく、全身の変化に目を向けることが、甲状腺疾患の早期発見につながります。
甲状腺の働きと体温調節の関係
甲状腺は首の前側に位置し、甲状腺ホルモンを分泌することで全身の代謝をコントロールしています。甲状腺ホルモンは、細胞がエネルギーをどの程度消費するかを調整する役割を持ち、心拍数や消化機能、体温の維持にも関与しています。このため、甲状腺機能が過剰または低下すると、体温にも変化が生じます。
特に甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態では、体内の代謝が過度に亢進し、熱産生が増加します。その結果、安静時でも体温が高くなり、発熱として自覚される場合があります。一方で、甲状腺機能が低下した場合は体温が下がりやすく、寒がりになる傾向が見られます。このように、甲状腺と体温は密接な関係にあります。
甲状腺機能亢進症と発熱
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病態で、代表的な疾患としてバセドウ病があります。この状態では、全身の代謝が著しく高まり、わずかな刺激でも大量のエネルギーが消費されます。その結果、体温が上昇しやすく、微熱から高熱まで幅広い発熱症状が現れます。
この発熱は感染症によるものとは異なり、解熱剤を使用しても十分に下がらないことがあります。また、発汗過多や動悸、体重減少、手指の震えなどを伴うことが多く、これらの症状が同時に見られる場合は甲状腺機能亢進症を疑う必要があります。発熱のみが目立つ初期段階では見逃されやすいため注意が必要です。
亜急性甲状腺炎による発熱の特徴
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染をきっかけとして発症すると考えられている炎症性疾患です。この疾患の大きな特徴は、強い首の痛みと発熱を伴う点にあります。発熱は比較的高く、全身倦怠感や関節痛を伴うこともあります。
亜急性甲状腺炎では、炎症によって甲状腺組織が破壊され、一時的に甲状腺ホルモンが血中に大量に放出されます。その結果、甲状腺機能亢進症に似た症状と発熱が同時に出現します。痛みを伴う発熱という特徴があるため、通常の甲状腺疾患とは異なる経過をたどります。
甲状腺クリーゼと高熱のリスク
甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症が重篤化した状態で、命に関わる緊急疾患です。この状態では、体温が急激に上昇し、40度前後の高熱を呈することがあります。加えて、意識障害や頻脈、下痢、脱水など多彩な全身症状が現れます。
発熱が極めて強く、全身状態の悪化が急速に進行する点が特徴であり、速やかな医療介入が不可欠です。感染症や手術、強いストレスなどが引き金となることが多く、甲状腺疾患の既往がある方では特に注意が必要です。発熱を軽視せず、背景にある疾患を正確に見極めることが重要です。
発熱が続く場合に考えるべき検査
原因不明の発熱が続く場合、血液検査による甲状腺機能評価が重要な手がかりとなります。甲状腺刺激ホルモンや甲状腺ホルモンの値を確認することで、甲状腺由来の発熱かどうかを判断できます。感染症が否定的である場合、早期に甲状腺検査を行うことが診断への近道となります。
また、炎症反応や自己抗体の有無を調べることで、亜急性甲状腺炎や自己免疫性甲状腺疾患の鑑別も可能です。発熱という症状だけで判断せず、全身症状や経過を丁寧に評価する姿勢が求められます。内分泌内科や甲状腺内科への相談も有効です。





