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ヨウ素と甲状腺の深い関係──すべての患者さんに知っておいてほしいこと
こんにちは。ひるま甲状腺クリニック蒲田、院長の蛭間重典です。
診療のなかでよくいただくご質問のひとつが、「海藻類は食べても大丈夫でしょうか?」というものです。甲状腺の病気と食事、特にヨウ素との関係については、世間にさまざまな情報があふれており、患者さんが混乱する原因にもなっています。
今回は、甲状腺の働きとヨウ素の関係を、最新の知見も交えながらわかりやすく解説します。
ヨウ素は体に不可欠な栄養素
ヨウ素(Iodine)は、私たちの体にとって必要不可欠な微量元素のひとつです。特に重要なのは、甲状腺ホルモンの材料になることです。
ヨウ素は体内で合成することができないため、食事から摂取する必要があります。厚生労働省は成人に対して1日150μgの摂取を推奨しています。
甲状腺ホルモン(T3・T4)は、全身の代謝を調節する役割を担っており、体温調整、エネルギー代謝、脳の発達、心臓や筋肉の機能にまで関わっています。
詳しくは、甲状腺ホルモンとその役割についてをご覧ください。
日本人はヨウ素を摂りすぎている?
実は、日本人の平均的なヨウ素摂取量は1日1000μg以上とされ、これは世界的に見ても非常に高水準です。その理由は、本邦は島国であり海藻類を日常的に摂取しているためです。
中でも特に昆布には注意が必要で、乾燥昆布1gには2000μg異常もの高濃度ヨウ素が含まれます。一方で、のりやわかめはそれほどヨウ素が多くなく昆布の1/10にも満たないため、通常の食生活で摂取する範囲であれば過剰摂取になる心配はまずありません。
過剰でも不足でもいけない理由
ヨウ素が不足すれば甲状腺ホルモンが作られず、「甲状腺機能低下症」になります。これは大陸の内陸部など、海産物を得ることが難しい国で問題となっています。しかし、日本のような島国では、むしろ過剰摂取によって甲状腺機能が抑制されることの方が懸念されます。
これは「ウルフ・チャイコフ効果」と呼ばれるもので、体が過剰なヨウ素に反応し、なぜか甲状腺ホルモン合成を止めてしまう現象です。
多くの場合はすぐに回復しますが、橋本病などの体質があり甲状腺ホルモンの産生力が弱っている方では、機能低下症を引き起こすことがあります。
ヨウ素制限が必要な人とそうでない人
ヨウ素制限が必要な人とそうでない人 誤解されがちなのが、「甲状腺の病気になったら海藻はすべてダメ」という極端な情報です。実際にヨウ素制限が必要なのは以下のような一部のケースに限られます:
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・補充療法をまだ始めていない橋本病の方
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・妊娠を希望する不妊治療中の方(万に一つも機能低下を避ける必要があるため)
それ以外の多くの甲状腺疾患ではヨウ素制限は必要ありません。
ヨウ化カリウムとは?──薬としての“ヨウ素”
次に、「ヨウ化カリウム(KI)」についてお話しします。ヨウ化カリウムは、ヨウ素を固めた医薬品で、バセドウ病の治療薬として用いられます。バセドウ病についてはこちらをご参照ください。日本では、バセドウ病の急性期治療にヨウ化カリウム丸を処方することがガイドラインにも提示されています。これは高濃度のヨウ素を投与することで、甲状腺のホルモン合成を抑制する作用(ウルフ・チャイコフ効果)を利用したものです。
しかし、国際的にはこの治療法はバセドウ病の標準治療としては認められていません。なぜなら、以下のようなリスクがあるためです:
・エスケープ現象(escape phenomenon): ヨウ素の内服を続けていると、身体がヨウ素に耐性を持ってきてしまい、甲状腺ホルモンの合成効果が薄れてきてしまいます。この現象をエスケープ現象と呼びます。この現象が起こるタイミングは個人差があり、早いと数週間で効かなくなってしまう人もいます。
・長期使用による甲状腺腫大(甲状腺の腫れ): 持続的に高濃度のヨウ素が与えられると、徐々に甲状腺が過形成を起こし、著名な甲状腺腫になるリスクがあります。
バセドウ病の治療に使われる「ヨウ化カリウム丸」は日本では一般的ですが、世界的には短期使用に限定すべきとされています。
イソジンうがい薬の使用について
ヨウ素を含む製品として「イソジンうがい薬」もよく知られていますが、こちらも注意が必要です。イソジンにはポビドンヨードが含まれており、頻繁に使用するとヨウ素を経口吸収することになります。しかも、過去の臨床研究では「イソジンによるうがいは風邪の予防には有効とは言えない(水うがいと同等)」とされているため、甲状腺に負担をかけるリスクを考慮すれば、当院では基本的に日常的な使用を推奨しておりません。
誤解を晴らすために──昆布はすべて禁止?
「甲状腺の病気があると海藻は禁止」と言われることがありますが、これは誤解です。まずのりやわかめはほとんどの方にとって制限不要です。昆布やひじき、めかぶなども甲状腺機能低下症のリスクが高く補充療法開始を先延ばししたい方や、不妊治療中・妊婦の方にのみ制限を指導しております。
心配な方は、甲状腺専門医にご相談ください。あなたの状態に合わせて、正確なアドバイスをご提供します。
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まとめ
- ・ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料であるが摂りすぎても甲状腺機能低下症になる
- ・昆布に含まれるヨウ素は高濃度、のりやわかめは少量のため気にしすぎる必要なし
- ・ヨウ化カリウムは長期使用で効かなくなってくるうえ、甲状腺腫大のリスクもあり
- ・イソジンの常用はうがい薬として推奨されない
- ・ヨウ素制限は特定の病態のみに限定。甲状腺専門医と相談して決めましょう
不安な方は、ぜひ当院にご相談ください。
ひるま甲状腺クリニック蒲田
院長:蛭間重典(日本甲状腺学会専門医/次世代研究者の会NexT-JTAメンバー)
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