
甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍
甲状腺結節とは、甲状腺内にできるしこりのことです。甲状腺結節は、腫瘍と腫瘍様病変に分けられ、腫瘍は良性と悪性に分けられます。悪性のものが、いわゆる「癌」です。
自覚症状としては無症状のことも多いですが、頸部のしこりに偶然気づいたり、検診などで指摘されたりする方が増えています。多くは良性で、その中には腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)、甲状腺のう胞などが含まれます。悪性腫瘍(甲状腺癌)は、乳頭癌が全体の90%以上を占め、ほかに濾胞癌、髄様癌、未分化癌、低分化癌、リンパ腫などがあります。
甲状腺にしこりをみつけた場合には、良性、悪性を判断するために甲状腺専門クリニックへの速やかな受診をお勧めします。
腺腫様甲状腺腫/腺腫様結節は、甲状腺に発生する結節(しこり)です。良性の結節で、最も一般的な甲状腺の腫瘍性疾患の一つです。単発のものを腺腫様結節、多発のものを腺腫様甲状腺腫とよびます。以前まで厳密には腫瘍ではなくただの過形成であると判断されてきましたが、2022年に改訂された世界的な病理基準(WHO分類)で腫瘍として再分類されました。多くの場合、自覚症状はありませんが、大きくなると首の腫れ、圧迫感、飲み込みにくさなどを感じることがあります。まれにホルモンを過剰に分泌し、甲状腺機能亢進症の症状(動悸、発汗、体重減少など)を引き起こすこともあります。
良性腫瘍のひとつで、超音波検査ではうすい被膜に包まれているように見えます。似たような見え方をする悪性腫瘍の濾胞癌との鑑別は細胞診検査でも難しいため、濾胞腺腫と濾胞癌を併せて濾胞性腫瘍とよんでいます。良性の濾胞腺腫なのか悪性の濾胞癌なのかについては、血管や甲状腺外への微小浸潤の有無で鑑別するため、厳密には手術をした後に腫瘍そのものを隅から隅まで顕微鏡で調べてみてようやく判断することができます。サイズが大きいもの、血液検査でサイログロブリン値が高いものは濾胞癌の可能性が高まるため、経過観察中にこれらの徴候を確認した場合には手術が推奨されます。
甲状腺のう胞とは、甲状腺内に液体が溜まってできる袋状の構造物で、腫瘍様病変に含まれます。小さいと無症状のことが多いですが、大きくなると首の腫れや圧迫感、飲み込みにくさなどの症状が現れることがあります。見た目が気になったり、生活に支障がでたりする場合には針を刺して袋の中の液体を抜くことができます。のう胞内部に液体以外の充実成分が含まれている場合には、良性か悪性か判断するために細胞診検査も行います。のう胞内の液体をうまく抜けたとしても、半数以上の方は時間がたつとそのしぼんだ袋にまた液体が溜まってきてしまいます。何度液体を抜いても溜まってきてしまう場合にはエタノール注入療法(PEIT)が適応となります。エタノールを袋の中に注入することで炎症を引き起こし、しぼんだ袋を癒着させて広がらないようにする方法です。当院では実施していないため、院長・副院長が火曜に勤務している伊藤病院や大学病院へご紹介させていただきます。PEITでも縮小しない場合には、のう胞の袋自体を取ってしまう手術治療を考慮します。
乳頭癌は、甲状腺癌の中で最も一般的なタイプであり、全体の約90%程度を占めます。比較的進行が遅く、予後良好なことが特徴です。初期には自覚症状がないことがほとんどで、健康診断や画像検査で偶然見つかることもあります。進行すると、首のしこりや腫れ、飲み込みにくさ、声のかすれなどの症状が現れることがあります。血液検査や超音波検査、細胞診検査で判断し、大きいものは外科的治療が選択されます。乳頭癌が小さく、甲状腺外へ隣接していないものは注意深く経過観察(アクティブサーベイランス)する選択肢もあります。乳頭癌は腫瘍が大きくなるスピードが遅く、生涯小さいままで寿命をまっとうされる方も多いこと、腫瘍が大きくなってから手術をしたとしても致命的にはなりにくいことが近年報告されているためです。
ただし、たしかに多くは予後良好ですが、リンパ節への転移をしやすく、中には予後不良な症例もあるため、油断せずに定期的に検査することが大切です。BRAF遺伝子変異、RET/PTC遺伝子変異がみられます。
濾胞癌は、甲状腺癌の一種であり、甲状腺癌全体の約5~15%を占めます。乳頭癌に次いで頻度が高いタイプですが、乳頭癌と比べると進行がやや早く、遠隔転移(特に肺や骨)を起こしやすい傾向があります。濾胞癌は、初期には自覚症状が少なく、甲状腺のしこり(結節)として発見されることが多いです。進行すると、首の腫れ、しこりの増大、飲み込みにくさ、声のかすれなどが現れることがあります。乳頭癌と異なり、リンパ節への転移は少ないですが、血流を介して肺や骨に転移することがあるのが特徴です。超音波検査での見た目や細胞診検査では良性腫瘍である濾胞腺腫との区別がつきづらいため、濾胞癌と濾胞腺腫を併せて濾胞性腫瘍とよぶこともあります。RAS遺伝子変異がみられます。
低分化癌は、甲状腺癌の中でも悪性度が高く、進行が速いタイプの癌です。低分化癌は、通常の甲状腺癌よりも細胞の異型度(異常な細胞形態)が強く、増殖スピードが速いのが特徴です。比較的発症頻度は少ない癌です。
未分化癌(甲状腺未分化癌)は、甲状腺癌の中で最も悪性度が高く、急速に進行する癌の一つです。甲状腺癌全体の1~2%程度と比較的まれですが、発症すると短期間で大きくなり、周囲の組織や遠隔臓器への転移を起こしやすいのが特徴です。比較的発症頻度は少ない癌ですが、発症すると進行のスピードが速く、首に痛みを伴うことがあります。乳頭癌や濾胞癌から未分化癌へ切り替わることがあり(未分化転化)、腫瘍のTERT遺伝子変異やTP53遺伝子変異が関連しているといわれています。
髄様癌は、甲状腺のC細胞(傍濾胞細胞)から発生する特殊な甲状腺癌です。髄様癌は甲状腺癌全体の約5%を占め、孤発性(原因不明)と遺伝性(遺伝子変異による)の2つのタイプがあります。RET遺伝子変異を認める場合には併存疾患や家族歴も重要となりますので、診察時にお伝えください。
まずは血液検査と超音波検査を行います。これらの結果は、原則、当日にご説明いたします。
血液検査と超音波検査を行うことで多くの疾患は判断可能ですが、より正確な診断につなげるため、必要時に応じて細胞診検査を行います(予約制)。
血液検査では、甲状腺ホルモン値や抗体価、生化学検査などを行います。超音波検査では、甲状腺のしこりの大きさや内部の見え方、血流などを確認します。
脈が速い、脈が乱れているなどの症状がある場合には、心電図の検査を行います。
良性のものが多く、その場合は血液検査や超音波検査での経過観察となります。
サイズが大きいものや悪性の可能性が高い場合は手術や抗癌剤治療を行うことがあり、患者さまの病態や希望術式によって伊藤病院や適切な大学病院にご紹介させていただきます。
院長
蛭間 重典(ひるま しげのり)
2019年 | 日本甲状腺学会トラベルグラント |
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2023年 | 日本甲状腺学会ロシュ若手奨励賞 (Young Investigator Award: YIA) |
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2024年 | 甲状腺病態生理研究会研究奨励賞 |
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